【プロジェクト2022】「知る」「みる」「伝える」でバリアフリー ~学生生活×接客アルバイトで挑戦~

【プロジェクト2022】「知る」「みる」「伝える」でバリアフリー ~学生生活×接客アルバイトで挑戦~

地球市民学科では、一人ひとりが卒業論文の執筆に加えて卒業プロジェクトに取り組みます。このプロジェクトとは「社会が抱える課題を、自分自身に関係がある身近な問題として理解し、他者と協働しながら具体的な解決策を提示し、実践する。そしてそれを発信する」ことです。私は文化施設の接客スタッフの立場から、アルバイト先のバリアフリー化に挑戦しました。
具体的にとった行動は「知る(勉強する)」「みる(向き合う)」「伝える(発信する)」の3ステップです。

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私のプロジェクトのポイント
「ダイバーシティ」や「インクルージョン」といった言葉が注目されている昨今、社会全体でバリアフリー化のための「プロジェクト」が実施されているかと思います。それらのなかで、私のプロジェクトには以下2点の特性があると考えています。
1 4年間という制限時間付きであったこと
2 ハード面ではなくソフト面からのバリアフリー化に挑戦したこと

4年間という制限時間
私は大学卒業後すぐに就職しようと決めていたため、文化施設での接客に携われる期間は4年間であることが、アルバイトを始めた大学1年生の頃から明らかでした。この4年間の途中には、「接客」に関わる全ての人々を震撼させた新型コロナウイルス感染症の流行があります。

ソフト面からのバリアフリー化への挑戦
バリアフリーと聞くと「道や床の段差をなくす」、「券売機に点字をつける」など、実際に手で触れることができるハード面の取り組みを思い浮かべる方が多いかと思います。たしかに、ハード面の取り組みも重要です。しかし私は、ある悔しい経験からバリアフリーを「心構え」、「知識」、「行動」などの手を触れることができない「ソフト面」も含んだ広い定義で捉えていく必要があると考えるようになりました。

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悔しい経験 ~接客で不平等を作り出してしまう~(大学1年 2019年11月ごろ)
ある日、私のアルバイト先に2人の視覚障害者お客様(仮にA様・B様とします。)がいらっしゃいました。A様のご案内は10年以上の経験があるベテランの接客スタッフが、B様のご案内は接客歴が1年にも満たない新人スタッフの私が担当しました。視覚障害者のお客様とご一緒することがはじめてだった私は、終始不安交じりでした。この日は特に大きな問題を起こすことなく仕事を終えましたが、今振り返ってみても、A様は安心してサービスを受け、B様は私から伝わってくる不安を感じ取りながらサービスを受けていたのではないかと思います。私は自らの至らなさから、お客様が文化施設で得た体験に「差」「不平等」を作り出してしまったのです。この日の悔しさは時間が経っても心の中に残り続けました。

転機 ~新型コロナウイルスの流行 接客の現場に立てなくなる~(2020年3月ごろ)
コロナ禍初期に社会全体にあった新型コロナウイルスへの警戒や緊急事態宣言発出などにより私たち接客スタッフの勤務は一時期ゼロになりました。大学4年間の接客のアルバイトから学びたいことがたくさんある私が、どうして足止めを食らわなくてはいけないのだろう、と思い悩んでいたところにサービス介助士資格取得講座の案内が届きました。ここから私のプロジェクトが本格的に動き始めます。

ステップ①「知る(勉強する)」
サービス介助士の資格取得講座では、高齢者や障害者の接客のヒントとなる知識を学ぶことができました。このことで、障害のあるお客様へのご案内に対する「自信」と「モチベーション」がかなり高まりました。

ステップ②「みる(向き合う)」
コロナ禍でありながらも様々な制限が緩和され、接客の現場に戻れるようになりました。資格を取得した私は意気揚々と障害のあるお客様への接客にあたるようになりましたが、仕事のなかで空回り感を覚えるようになりました。

たとえば、
・いつでもお手伝いができるように必要以上に見守ってしまう
・「これやります!」とお手伝いをしようとしても断られて、なんとなく気まずくなってしまう
など。

ここで2つめの行動「みる(向き合う)」をはじめます。
どんなお手伝いが必要かお客様をよく「見る」ことはもちろん、どんなお手伝いが不要かよく「察る(みる)」ように気をつけることにしました。

具体的には
・「やります!」の押しつけがましさを反省
・「○○できますが、いかがなさいますか?」と選択肢を示す
・言われたことはきちんとする、言われたこと以外は基本的にはしない
といったことをしています。

その結果私は、「相手を尊重する感覚をつかむ」、「ハードにあたる施設面の要望を聞き出す」という2つの成果を得ました。

相手を尊重する感覚をつかむ
障害のある方やご高齢の方は、ひとりの大人・個人です。そんな当たり前の事実が以前まで身体に染みついていなかった気がします。「ひとりの大人・個人」だからこそ、気負いすぎることなく対話すれば良いと気がつきま
した。

彼らに必要なのは、
①「いつでも手助けを頼め、それに応える環境」
②選んでもらうこと
の2つであると考えています。

ハードにあたる施設面の要望を聞き出す
日々、お客様をご案内しているなかで「このホールの一般化粧室には点字の案内がないんですね」というお話をいただくことがありました。お客様にそう言っていただくまで私は空間が広く、手探りで空間把握をしにくい多目的化粧室よりも、狭くて両手を広げれば必要なもの全てに手が届く一般化粧室の方が使い勝手が良いことが多いということに気がつくことにも、視覚障害者がよく使う一般化粧室に点字の案内がないことにも気がつくことがありませんでした。

ステップ③「伝える(発信する)」
ここから私の3つ目の行動「伝える(発信する)」に移ります。
私は「上司」と「お客様」の両方に情報の発信をしました。

上司への発信の結果
私→接客部門の長である私の上司→設備に関する権限を持った方々というフローを経て先ほどの要望が伝えられました。そして私のアルバイト先の一般化粧室の個室全てに点字シールが装備されました。

お客様への発信の結果
一般化粧室の要望を出してくださったお客様は、点字シールが装備されてすぐの時期に再度来場してくださいました。一連の流れを直接お伝えしたところ、とても嬉しい言葉を私にかけてくださいました。

その言葉は、
色々な人が意見を出し合って、みんなが暮らしやすい社会を創っていけたらいいですね
というものでした。


まとめ
私は、狭義のバリアフリー化ではなく、広義のバリアフリー化に取り組むべきではないかという仮説のもと、行動を起こしました。今の私に、先ほどの円はこのように見えています。地球という場所がハードで、それを人がソフトとして取り囲んでいるイメージです。

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人は人同士が助け合うことも
人はもともと生えている木をハード・設備として用いてでくつろぐことも、
木を育てることもできます。

ハード(地球)自体が存在することはもちろん大切だけど、それを使う人や使い方・使う意図(ソフト)も負けないくらい大切

これが、私が卒業プロジェクトや、地球市民学科の学生をしながら接客のアルバイトに取り組んで学んだことです。
(地球市民学科 4年 M.K.)

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